「主人があんなことするわけないじゃないですか? だいたい、取引先を断らせたのは、あなた方じゃないですか? そのために夫は殺されたんですよ。あなたたちにも責任の一端があるでしょう。私たちは被害者なんです」

 普段、大人しい母の口から出たとは思えないくらいの金切り声にも驚いたし、"被害者"という単語が10歳の私の心をえぐった。

「分かってます……分かってますよ」

 さすがの岡本たちも、尻込みした。

「だったら……」
「別に胡桃山《くるみやま》君のことを疑ってるわけじゃないですよ。でもね、あんな記事が出てしまって、我が社もかなりのダメージを受けたのも事実なんです」

 胡桃山――私たちの名字だ。

「だったら出版元を訴えたらいいじゃないですか?」
「そりゃあ、担当の弁護士さんにも相談しましたよ。でもね、あの記事は一つも断定してないんですよ。こういう話もあったよとか、こういう可能性も考えらますよってえっちらおっちら明言を避けてて。だから名誉毀損で訴えを起こしても勝てるかどうか分からないって結論なんですわ」