酸素を求める金魚のように、立ち上がった私は従業員用のドアを開け、外に出た。

 店の側面に移動しようと思った。そこから見える景色が好きで、眺めていたら少しは落ち着けるんじゃないかと思ったのだ。

 手前にはちょっとしたビルが混じった町並みが。その奥に小さくではあるが海が見える。横浜や神戸のようなきらびやかさがあるわけではないし、風光明媚な観光地のほど迫力があるわけでもない。

 "丁度言い塩梅"とでも言えばいいのだろうか。失礼な言い方だが、私にはこれくらいが相応しいと思える程度の美景が、ストンと胸の中に納まる感じが心地よかった。

 身分相応なその景色を見たい一心で、ドアを出た私は無防備に建物の角に差し掛かっていた。

 関係者以外ここは通らない。そしてこの時間帯にそんな関係者はいない。そう決めつけていた私は、建物の角を回ったところで人とぶつかった。

 人の体が目に入るより先にまず衝撃を感じ、背後にあるフェンスに背中をしたたか打ちつけた。顔をしかめ、何とか体勢を整えようと手を伸ばすも、フェンスを掴むことはできず、盛大に尻餅をついてついていた。

「……すいません!!」

 何より先に謝罪の言葉が出たのは、多分、気持ちは仕事モードになっていたから。