伊太利亜亭あぐりは、予想以上の繁盛店だった。

 四人掛けの丸テーブルが六つ。六人掛けの角テーブルが四つ。あとはニ人用の丸テーブルが十卓あり、席数で言えば六十八席の店が、規模で言うと大きいのか小さいのなは分からない。

 ただ都会の繁華街の店ならいざ知らず、海沿いのそんなに大きくもない街の、しかも車で行かないとたどり着けない少々便の悪い高台にある店であるということを考慮すれば、平日で全ての席が埋まるばかりか、ウェイティングが発生することさえ珍しくない状況というは、やはり繁盛店なんだろう。

 私はホールスタッフとして必死に奔走した。最初こそ周囲の余裕のある様子に、初心者でも頑張ればある程度仕事になるだろうと高をくくっていたものの、その考え自体が実に甘いんだとすぐに痛感した。

 お姉ちゃん、お水ちょうだい。白ワインお替り。頼んだマルゲリータいつ来るかな?

 少し歩けば客に呼び止められる。注文取りからしている客なら、まだ流れが分かるだけマシだ。しかし今初めて顔を見た客となるとそうはいかない。

 白ワイン一つとっても苦労する。グラスワインの白だけで三種類用意している。伝票を確認して、白ワインの種類が分かっても、ワインセラーの中から自信をもって瓶を選べない。結局は近くにいる先輩ホールスタッフに聞くことになるのだが、忙しいとおいそれと捕まえることもままならない。