歯を食いしばり待ち続けたが、会社からはなかなか連絡がない。

 ようやく父の会社の人間が訪れたのは事件が発生してから二か月ほど過ぎた頃だ。

 一人は専務取締役の岡本という男。もう一人は父の上司だった部長の竹岡という男だ。

「随分、ゆっくりといらしたんですね?」

 岡本の顔を見るなり、母の苛立ちは惜しげもなく漏れ出した。

 父の葬儀の際、父の会社の社長は、これからのことは我々に任せてくださいねと優しい言葉をかけてくれていたし、それからも度々、大丈夫ですか? と近況を問う電話をくれていたのに、父を貶める記事が出てからは、ぱったりと連絡が途絶えていた。

「色々と火消しに追われてましてね」

 岡本の高圧的な態度に、やはりそうなのかと思った。会社の人間まで、あの記事を信じるのかと。

 形ばかりのお悔やみの後、テーブルの上に封筒が置かれた。父の退職金と見舞金だったが、その薄さに母親の顔が強張ったのが見て取れた。

「たったこれだけですか?」
「こちらも……迷惑してるんですわ」

 記事には父の会社名も載せられていた。誹謗中傷の波が父の会社まで押し寄せてきていた。