「……綺麗」

 ハンカチで額の汗を拭いながら、私は目を見開いた。決して壮大な景色というわけではない。ただ、日光に輝く海が魅力的だった。

 しばし景色を眺めてから、店の方に体を向ける。駅前というわけではないから駐車場は広め。その駐車場の奥にはオレンジのレンガ調の壁が見える。正面の壁には看板が。その看板の左側に緑白赤のイタリア国旗のペイントが施され、その国旗の隣には屋号が記されている。

 ――伊太利亜亭あぐり。

 文字通り、パスタ・ピザなどか食べられるイタリア料理屋で、あぐり――野菜にこだわった店だと手紙には書かれていた。

 自転車を店の脇に置き、不慣れなせいで客用の入り口に向かいかけてからハッとし、慌てて店の側面に回ったものの、従業員用の入り口が見当たらない。恐る恐る建物の横を進んでいくと、丁度建物の背後に位置する場所にそれらしきドアを発見した。

 ノブを回し、ドアを開ける。隙間から顔を入れ、周囲を確認するも人気《ひとけ》はない。

 失礼しますと断りを入れ、恐る恐るといった足取りで一歩一歩奥へと進む。厨房らしき場所にたどり着いた。すいませんと声をかけるものの、緊張で小さな声しか出ない。誰からの返事もなく、先程より大きく息を吸ったところで不意に背後から、ちょっと、と声をかけられた。