高校生活とスマホ。どちらも私が諦めていたものだ。まさかこんなに簡単に手に入るだなんて、想像もしていなかった。

 佐藤はどこまでも手が込んでいて、箱を開ければスマホにはピンク色の可愛いカバーと画面保護シートまで着けてくれていた。

 カバーの裏には付箋。可愛いだろ? 趣味じゃないなんていうなよ。今度は泣きながら笑った。

 何から何まで憎めないじゃないか。佐藤には心の底から感謝した。

 そうこうしているうちに、入学式当日を迎えた。

 真新しい制服に着替え、リビングに下りていくと哲史が朝食の片付けをしてくれていた。

「ありがとうございます。残りは私がしますよ」

 親子の設定ではあるが、まだ慣れず、どうしても敬語になってしまう。これでも一度《ひとたび》外に出れば、親子らしい馴れ馴れしい言葉遣いをになるよう気をつけてはいる。

「制服汚れちゃうから、いいよ」

 哲史は優しかった。家事はそつなくこなせる人で、ボタン付けは抜群にうまかった。

 初めこそ少し軽快をしていたが、佐藤の言う通り、哲史は一度たりとも私をいやらしい目で見たことはなかったから、今ではすっかり安心している。