気持ちが弱っていると、その隙間に入り込むようにニコニコして近づいてくる人がいる。何だ、分かってくれる人もいるんじゃないか。そう思った途端に、酷い言葉を投げつけられた。本当はお前の父親が悪いんじゃないのか? 刺されて殺されたのだって自業自得だろう。

 無言電話や罵詈雑言を囃し立てる電話も増えた。たまりかねて電話線を抜いたら、今度はドアに、消えろ、どこか行け、と落書きされるようなった。

 ただひたすらに他人が怖かった。私は学校に行かなくなり、母親はパートを辞めることを余儀なくされた。

 部屋で物音一つ立てず、ひっそりと過ごす日々。気配を消すことが私と母にできる全てだった。

 ある時、石を投げつけられ、ガラスが割れた。管理会社に連絡をして、ガラスを交換して貰ったが、またすぐにガラスを割られてしまう。何度目かの連絡の際、直したって無駄でしょと開き直られてしまい、それ以来、段ボールを窓枠に貼るようになった。

 収入が途絶え、蓄えは減少の一途を辿り、それでも逃げ出さなかったのは、父の会社から支払われるであろう退職金と見舞金を当てにしていたからだ。