「ペナルティ?」

 そんなものがあるなんて聞いていない。

「あれ? 聞いてない? もし僕たちが人生を買ったことがバレたら、その人生は凍結されてしまうんだよ」
「凍結……ですか?」
「そう、凍結」

 その頃、哲史は既に仕事を始めていた。

 食品会社の配送業務なのだそうだ。常温のものもないことはないが、要冷蔵の品物が圧倒的に多く、保冷車に乗ってスーパーマーケットなどの客先に納品している。そこそこ見栄えもして、人当たりも悪くない哲史なら、営業の方が向いてるような気がしたが、営業だと客と仲良くなるにつれ、個人的なことも話さなければならなくなり、人生を買ったことがバレるリスクが高まる。その点、配送ならば客先で挨拶さえしっかりしておけば、深く詮索されることもない。

「凍結とは、つまりその人が、この世に存在できなくなるってことだよ」

 まだピンとこず、私は首を傾げた。

「つまり田中伊織として生きていけなくなる」
「私は生きているのに?」
「そう。生きているのに」
「家から出られなくなっちゃうってことですか?」
「いや、強制的に別人として生きていくことになるはずだよ」