伊織の経歴に関して記されているのはここまでだ。小学5年生つまり11歳から現在の15歳までの空白の4年間。その間に、彼女の身に一体何が起き、人生を手放すに至ったのかを私が知る由もない。

 それでも少しでも補完しようと見たこともない元の田中伊織に思いを馳せる。

 どんな見た目だったのか。可愛かったのか、そうでもなかったのか。性格はどうか。大人しい女の子だったという記載があったが本当のところはどうか。

 私が田中伊織だと言われても、やはりピンとこない。

 とにかく一度考え始めてしまうと、明確な答えが見つかるわけでもないのに、そのことばかりが頭の中で回り続けてしまう。

 無限ループと呼んで差し支えないそんな思考の渦の中で、いちいち詮索していてはこの先、心がもたなくなることを脳が理解するまでに半月ほどの時間を要した。そして、その半月で家を出たのは哲史と近所の挨拶回りをした時と、食材の買い出しの時だけで、さながら引きこもりのような生活を続けていた。

 さすがにファイルとのにらめっこにも飽きて、少しばかりファイルから遠ざかる時間が増えた頃、哲史が、ペナルティは怖いよね、と突然、言った。