そう言って頭をかく仕草を見ても、いやらしい様子は微塵も感じさせず、私は人知れず胸を撫で下ろした。

 本当にゲイ――なのだろうか。女装しているイメージがあったが、考えてみたら、ゲイとは男の恋愛対象が同性というだけのはずだ。女装したい。つまり自分を女だと認めたい、認められたいという、自分の性別自体に疑問を抱くのはトランスジェンダーでよかっただろうか。

「嬢ちゃん、聞いてくれ」

 父になる男に意識を向けていると、佐藤が私の顔を見た。

「お互い、昨日までのことは何一つ知らされてもいない。さっきも車内で話した通り、昨日までのことはもう他人の話だ。蒸し返したり、余計な詮索はするな」

 今日からのことだけ考えろということだと私なりに解釈した。それはありがたいことだ。お互いすねに傷を持つ身だろうが、過去のことを聞いて見た目が変わっても困る。

「分かりました。宜しくお願いします」

 お互いペコリと頭を下げ、私は田中伊織になった。