「それは働いて返してもらうからいい」
「働くって……援交とか?」
「アホか」

 佐藤はケタケタと笑った。風俗って言わないだけ可愛いもんだな。そう付け加えてから、急に真面目な顔をした。

「何でそう安直な発想をするんだ。俺はヤクザか? お前は身売りされたんか? 違うだろ。高校行ったらバイトしてもらうんだよ。父子家庭で経済的に必要な措置ということで学校にも許可は取ってあるから気にすることはない。バイト先も決めさせてもらってるし、バイト代が振り込まれる銀行口座も嬢ちゃん名義で作ってある。そこから月々、いくらかずつ頂く。全部じゃねぇよ。小遣い程度には残るようにしてあるから安心しろ。見ず知らずの父親から小遣いもらうより気を遣わなくていいだろ? 嬢ちゃん、人に甘えるのとかあんまり好きそうじゃねぇしな。とにかくそのバイト先で2年半働いてくれ」

「……半って?」
「大学行くかもしれねぇだろ。最後の半年くらい死に物狂いで勉強しろ」

 言葉遣いは煩雑だが、それでも佐藤は時折、優しい言葉を吐く。

「とにかくだ。2年半終われば、金の件も落着だ。正真正銘、お前は晴れて自由の身になる。大学行くもよし、専門学校行くもよし、もちろん働いてもいい。とにかく俺のことなんて一切合切忘れて、田中伊織という人間の人生を思う存分満喫してくれ」

 話す言葉も浮かばず、何度かうなずくだけで私は外の景色に目をやっていた。