「一番上に日付と時間が印字されているだろう」
「はい」
西暦に続き、12月16日pm.18:43とある。
「それは嬢ちゃんが、田中伊織のこれからの人生を手に入れた時間だ。もちろん、環境整えたり、何だがんだ準備があって、実際に稼動するのは今日になっちまったんだが、とにかくその印字されてる時間からシステムにある田中伊織という名前がリストから消えて、誰にも手が出せないようになってる」
だから忘れるなよ。佐藤がチラリと私の方を向いた。
「その時間こそが嬢ちゃんが新しい人生を歩み始めた出発点だ」
私は今一度、印字されている時間に視線を落とし、大きく大きくうなずいた。
刻印されている時間こそが、私が世間から虐げられるというレールから外れることができた瞬間なのだ。
車は大通りからいよいよ住宅街に入った。よく言えば閑静な、悪く言えば少し暗い町並みの中を進む。道は決して太くはないが、普通車がすれ違うのに困難なほど細くもない。
「あの……そういえばお金は?」
ずっと気になっていた。佐藤に渡したのは貯金箱に入っている小銭だけ。正確な金額は確認していないが、多く見積もっても5000円あるかないかというところだろう。