山辺を下り、市街地に入る。都会ということはないが、今まで住んでいた町よりは栄えている。

 エムのマークのファーストフード店もあったし、コンビニもちょくちょく見かける。遠くにちょっと大きめなショッピングモールらしき建物も見えた。

 この段になって、新しい生活がすぐ身近にあることを痛感した。

「あの……」
「何だ?」
「本当に私が胡桃山美月だったことは内緒にできるんですよね?」

 いつ何時、事件のことが露呈しないかということばかり考えてしまう。

「嬢ちゃん、なめてんのか?」

 急に恫喝されて首をすくめる。

「勘違いするな。内緒にしておけるおけないの問題じゃねぇ。そもそも口にすること自体がもう許されねぇことなんだよ。胡桃山美月っていう女の子の名前も過去もそして未来も、何もかもひっくるめて全部、もうお前の手から離れたんだ。近い将来、嬢ちゃんの知らない誰かのものになる。分かったな? それと――」

 運転しながら佐藤は私の膝の上に乗せられている薄い方のファイルを指差した。

「そのファイルの一枚目を開いてくれ」

 言われた通りにする。