「トイレとかいいか? 今から家に行くが、少々距離がある」
「大丈夫です」

 うなずくと佐藤は車は発進させた。

 車ぱ10分ほどで高速道路に乗った。

 会話もないまま粛々と進み、県境を超えたところでようやく佐藤は口を開いた。

「分かってると思うが、母親に別れの挨拶はできねぇ。嬢ちゃんは、下校途中で突如行方不明になるんだ」

 突然、拉致されたように車に乗せられた時点で覚悟はできていた。

「あ、それと約束は守って、ポストにチラシは投函しといたからな」

 母がそのチラシを見て、どう行動を起こすかは分からない。ただしチャンスを得たことに違いはない。

「ありがとうございます」

 あとは祈るしかないのだ。母が新しい人生を歩むことを。

 車は高速道路で2時間ほど進んだ。途中、いくつかジャンクションを経由し、やがて遠くに海が見える場所を走っていた。

 佐藤はハンドルを切り、インターチェンジを降りた。