佐藤は一言も声を発せず、30分ほど車を走らせると、コンビニの駐車場に乗り入れた。丁度、店舗の裏にある駐車場で、ひと目にもつきにくい場所だ。

「待たせて悪かったな」
「もう来てくれないんだと思ってました」
「時間がかかるって言わなかったか?」
「こんなにかかるなんて思ってもみなかったんです」

 佐藤が顔を見せた瞬間を思い出しては、またハンカチを目に当てる。

「とにかく約束は守ったんだからいいだろ? そんなに泣くなって」

 ほら。佐藤は唐突にファイルを2冊渡してきた。1冊は比較的薄く、もう1冊は辞典のように分厚い。

「そのファイルに田中伊織に関する分かり得る限りのデータが全て記載されている。これは今日から全て嬢ちゃんのもんだ。って言ったってかなりの量がある。一気に覚えるのは難しいだろう。だから2冊に分けてある」
「だからって?」