帰りが遅かったことはやはり母に叱られた。

 年頃の女の子なんだから心配するでしょ。ごめん。何してたの? えっと、図書館行って――。図書館、こんなに遅い時間までやってないでしょ。本読んでたら感動してしまって泣いちゃって、まぶた腫れた状態で帰ったらお母さん心配すると思ったから公園で時間潰してた。

 我ながら下手な嘘だなと思った。案の定、母が納得するはずもなく、急に心配な顔で私の顔を覗き込んできた。

「まさか……あんたイジメられてるの?」

 本に感動したのではなく、イジメられて泣いてしまったのかと母は心配したのだ。

「違うよ。ホント、そんなんじゃないよ。親友がいるわけじゃないけど、まずまずうまくやってるから安心して」

 憮然とした表情のまま、しかし母は引き下がってくれた。このままズルズル問いただされていたら、男のことを話してしまいそうだったから助かった。

 次の日、朝から教室の空気が一変していた。

 遠巻きに見る生徒との距離感というか、見つめる視線の色というか、言葉にはできない何かが明らかに違う。

 慣れてるから分かるのだ。もう――私はこの教室において異物でしかないということを。

 一日、ただひたすらに手元に視線を落とし、まともに顔を上げるのこともないままに過ごした。おかげで誰との接触もなく、放課後にこぎつけた。