先程断られたが、はい、そうですか、と簡単に引き下がるわけにはいかない。例えこの先、他人になっても、同じ苦しみの中、二人で耐え忍んだという事実は変わらない。

「さっきも言っただろう。もうここは引き上げる。無理だ」
「お願いします」
「だから無理だっつってんだろ」

 私は立ち上がり、男に詰め寄っていた。

「お願いします」

 頭を下げ、しまいには男の袖をつかんでいた。

 お願いします、お願いします。何度も何度も繰り返す。

「私にできることなら、何でもしますから」

 この先、他人だからと言われたって、母がどうなっても構わないだなんてやはり割り切れない。せめて別の人間として、新しい人生を歩んで欲しい。

「お金はないので、私を好きにしてください」

 お金が足りないと言われた時は、こうしようと決めていた。なりふりなんて構っていられない。自分の体でも若さでも利用できるものはとことん利用してやるつもりだった。

 服の裾に手をかけたところで男が手を上げた。