「私は……どうしても別の人生を生きていきたいんです」

 胡桃山美月という名前に愛着がないわけではない。でもそれ以上に足かせが重すぎだのだ。

 この気持ちだけは嘘偽りはなく、真っ直ぐに男の目を見ることができた。

 男は破顔した。

「気に入った。じゃあ準備、進めんぞ」

 私もようやく笑うことができた。

 男はまたディスプレイに目を向け、私はその様を漫然と見ていた。

 集中していたのだろう。男が私に気づくのに数分の時間を要した。

 あれ? まだいたのか。男が再び私に目を向けた。

「もう話は終わりだ。外も暗いし、さっさと帰んな。あぶねーぞ」

 でも、私は腰を上げられずにいた。男の方の用事が済んでも私の方はまだ終わっていなかったからだ。

「どうした?」
「あの……別々の人生で構わないので母を助けてもらえませんか?」