私は首を横に振った。

「その人生を歩んでた張本人はどこに行った? ってことになる」

 男は目を細めて、私を見やる。

「もちろん俺の仕事も脅かされるし、このシステム自体が崩壊しかねない。そんな生半可なことをしてもらっては困るんだ。世の中には嬢ちゃんみたいに自分が悪くなくても世間から虐げられている人間はごまんといる。縁があればソイツらも新しい人生を謳歌することができる。ソイツらの希望を潰す権利は、誰にもねぇよな?」

 分かるか? 新しい人間になるってことはそういうことだ。男が私の目を見た。やはり私自身が卑しく感じてしまうくらいに男の目は澄んでいた。

「ここで怖気づく人間は少なくねぇ。今ならまだ戻れる。さぁ、どうする?」

 私は自分の手元に目をやった。

 苦しかった日々。納得がいかないから我慢もできない。どうして私たちが。私たちが何か迷惑をかけたのか。事件からのこの5年間は、そう自問する日々の連続だった。

 どれだけ胸の中で殺意を覚えたとしても、不特定多数の相手では多勢に無勢、結局はその場から退散を余儀なくされ、その度に負け犬根性を自覚させられた。消えてなくなりたいと思ったことだって、一度や二度じゃない。