「この人生の元持ち主と嬢ちゃんの項目で異なってる部分だ。いくら毎年多くの行方不明者の名前がリストに上がってくるっつったって、丸被りする相手が見つかるはずがねぇからな。今後のことも考慮して、差し障りのないものは元々のものに合わせてもらう」
「差し障りのない項目って……?」
「例えば誕生日だ。年齢まで偽るのは宜しくねぇが、誕生日が今の7月22日から一ヶ月くらい変わったって大したことじゃねぇだろ? 体重だって変わってくもんだ。大体合ってれば問題ねぇ」 

 田中伊織たる人物の誕生日は、8月19日なのだそうだ。体重は現時点で私の方が2キロ軽い。

「私はこれから8月19日生まれってことですか?」
「そういうこった」

 で、今日のところはこれで終わりだ。男からいきなり終止符を打たれ、私はあからさまにうろたえる。

「今からその……田中伊織さんになるんですか?」

 心の準備も何もできていない。

 私の言葉に男はいきなり吹き出した。

「まさか。映画の世界じゃないんだ。外に出たら、皆が嬢ちゃんのことを田中伊織だと認識するはずがねぇ。認識されないもんを必死に演技したって何の意味もねぇだろ」