その時の精神状態は本人にしか分からない。ただはっきりと言えることは、その営業マンが工場の休憩室にあったナイフで父を刺したということだ。

 所詮果物ナイフだ。研いであるわけでもない。大切に扱われているわけでもない。刃渡りに至ってはたかだか13センチくらいなものだ。

 しかし刺しどころが悪かった。

 左脇腹から斜めにナイフは根元まで刺さり、刃先は父の心臓にまで達していた。

 実はこの時、休憩室には一人、アルバイトで来ていた男子大学生がいた。レーンに入って商品の箱詰めをしている最中に気分が悪くなり、レーンから外れ休憩していたのだという。

 警察に通報したのはこの男子大学生――古川雄大《ふるかわゆうだい》だった。古川は倒れ込む父に走り寄り介抱をした。当然ながら彼の服や手にはビッシリと血が付着していた。