「あの……お金はいくらなんですか?」

 その中で一番不安なのはお金の問題だ。今所持しているのは、貯金箱に入ってる分だけ。貧乏な家庭が辛うじて中学生の娘に渡している分を節約してせっせと貯めた程度の金額なんて、世間でいったらたかがしれてる。消費税にもなんねぇよと言われるのがオチかもしれないが、聞かないわけにはいかない。

「何だ、払えるのか?」
「払えるのかどうかが知りたくて、まず金額が知りたいんです」

 人生の値段なんてきっとネットで調べ立って分からない。

 男は返事もせず、しばらく私の顔を凝視した。 

「ムリだ。嬢ちゃんには払えねぇよ」
「だったら――」
 
 今している手続き自体が意味を成さないではないか。

 余程、訝しい顔をしていたのだろう。

「いくらあんだよ」

 金を見せろと男はテーブルの上を指し示す。

 私は貯金箱を鞄から取り出し、スチールデスクの上に置いた。蓋を回して開ける。中を除けば全て硬貨で紙幣の類は一枚もない。

 男は貯金箱の中を覗いて、大きな大きなため息をついた。