途端に不安になる。その建物の4階に来いと言われていたのだ。エレベーターを出て、すぐ右の部屋だと。

 もしかして建物を間違えてるのかと思い、道のりを頭の中で反芻してみる。入る路地は合ってると思う。郵便局が乱立しているはずもない。タバコ屋も多分、大丈夫だ。

 一度、路地に出て、進行方向の先を見やる。目的地はもっと先にあるのではないかと考えたのだ。

 薄暗く、先は見通しにくい。必死に目を凝らし、しかし見える範囲にそれらしい建物は見つけられず、私はいそいそと建物に戻った。エレベーターの前に立ち、上行きのボタンを押す。

 4階に行って確かめるほかはない。

 エレベーターが4階に到着すると、私は言われたとおりに右を向いた。確かに部屋が一つあり、そのドアの前に立った。

 しかしドアには何も記載されていない。思考が止まり、立ち尽くす。

 しばらくはそうしていたと思う。騙されたのか。このまま帰った方がいいのか。そこまで考えたところで、ドアにある小さな的から明かりが漏れていることに気づいた。

 室内に人がいるということだ。

 私は大きく息を吐き出して、ドアをノックした。

「入れよ、嬢ちゃん」

 少ししゃがれた声は受話器越しより少し高く感じた。でも間違いなく先ほどの電話の主だ。