正直、出産は大変だった。出産は初産ということを考えれば安産だったと産婦人科の先生に言われたものの、決してそんな生半可なものではなかった。ドラマのようにすぐ生まれるわけでもなく、延々と陣痛の波に翻弄され、優しく励ましてくれた陵に当たり散らし、その様子を見た看護婦にも笑われ、情けなくなって涙した。

 それでも生まれてきてくれた赤ちゃんは本当に本当に可愛くて、今度は嬉し過ぎて涙が止まらなくなった。

 それが美桜だ。毎年、美しい桜が見えるような落ち着いた生活ができるように。何より、桜のように普段目立たなくても、時折、人が見惚れるような存在でいてほしいという思いを込めて名付けた。
 
「君のお母さんに会いにいかないか?」

 そんなある日、突然、陵がそう言った。

「でも、どこにいるのか分からないよ?」

 収監先までは報道されない。

「弁護士に相談しようよ」

 私たちは弁護士に相談し、母が収監されている刑務所を知った。