まるで私たちのことをどこかで監視していたのごとく婚姻届が同封されていて、驚きとともに笑ってしまったことをよく覚えている。その婚姻届と一緒に手紙が入っていた。

 手紙には伊藤聡《いとうさとし》という男性のプロフィールが長々と綴られていた。高校の校長まで務めた人で、人望は厚く、一方で子供に恵まれず、奥さんも他界している。その伊藤氏と陵を養子縁組しないかと手紙には記されていた。既に話は通してあるとも。

 会ってみたら伊藤氏はとても穏やかな人だった。私も陵も伊藤氏を気に入り、陵は養子縁組をすることになった。

 陵は馬酔木の姓を捨て、伊藤陵になった。
 
 無事に養子縁組が済んだところで陵が一足先に島を出た。伊藤氏の住む町へと引っ越したのは、伊藤氏の紹介で教材を扱う会社への就職が決まっていたからだ。そのまま中古の一軒家を借りた。アパートにしなかったのは子供を庭で遊ばせたかったから。

 私もまた親戚に呼び戻されたという理由をでっちあげ、少ししてから陵の元へと向かった。

 島からの脱出が成功すると、私たちはそのまま入籍した。胡桃山ではなく伊藤美月になると私は産婦人科に通い、本腰を入れて出産に挑んだ。