「あの……新しい人生を歩むって、具体的にどういうことなんですか?」
「具体的にもなにも、今までの自分を全部捨てて全く新しい人間になって生きていくってことさ。それ以外に何がある?」
「もしかして、宗教か何かなのかなぁって思ってたので」

 受話器の向こうでカカとした笑い声がした。

「宗教に入りたかったのか?」
「いえ、違います」
「だろ? あんたは欲しいはずだ、全く違う人生をさ」
「はい……」

 声の主とは直接会ったことは一度もない。それなのに全てを見透かされているようで恐怖さえ感じた。

「で、どうする?」
「どうするとは?」
「決まってんだろ。新しい人間になって全く新しい人生を歩むのか。それとも後生大事に、今の人生を生き抜くのか」
「新しい人生を歩きたいです。今の人生なんていらない」