美桜はあの時、お腹にいた子供だ。

 母は――山下育美という名前の自称占い師の女は――今、刑務所で服役している。殺人罪で18年の実刑判決。出所までまだまだ長い。

 あの日、宮内漁港から逃げ帰った私は陵に全てを話した。古川が宮内漁港で働いていること。私が古川を刺そうとしたものの、母が身代わりになって古川に復讐したこと。さらには私のお腹の中には陵との間の子供がいることまでも。

 陵は驚き、言葉を失い、神妙な面持ちでいたが、子供のことに話が及ぶと、私の前でひざまずいた。
 
 陵はプロポーズをしてくれた。一緒にお腹の子供を育てたい。私と子供を守っていきたい。使い古された言葉だったが素直に嬉しかった。

 ずっと堕胎しようか迷っていたが、産む決意をしたのもこの時だ。

 私は彼のプロポーズを受け入れた。

 これからは怒涛の日々だった。 

 結論から言えば、私も陵も新しい人生を歩むことはしなかった。いや、そもそも佐藤は誰かの人生を私に持ってくることはなかった。

 代わりに佐藤から封筒が届いた。島に移り住んでから2ヶ月ほどした頃のことだ。