よほど古川を睨みつけていたのだろう。占い師が優しく言った。

「今、あの幸せそうに一服している男がこの世からいなくなったら、あんたはこの先の人生のことを前向きに考えるんだね?」

 言ってる意味が分からない。

「どうなんだい?」

 勢いに押され、うなずくしかなかった。

「そうかい……分かった。だったら、私に任せな」

 占い師は立ち上がり、地面に落ちているナイフを拾った。ポケットからハンカチを取り出し、それを海水で濡らし、ナイフの柄の部分を丁寧に何度も何度も丁寧に拭った。

「いいかい? 約束だよ。あんたは幸せになるんだ。過去のことは全て水に流すんだ。全てだよ。いいね?」

 返事をする前に、占い師は走り出していた。胸の前にナイフを突き出し、ちょうど一服を終え、立ち上がった古川の体と占い師の体が重なり合うのを、私はただただ見守ることしかできなかった。