「もうそんなことどうでもいい。もういいから離して!!」

 ナイフの柄を握ったまま、無理やりに鞄から手を抜き出した。占い師も私の手を離さず、ナイフの奪い合いになる。

「お願い。私の好きにさせて」
「離さないよ。あんたが止めるまではね」

 何度かの押し問答の末、ナイフは宙を舞い、甲高い金属音を立て、アスファルトの上に落ちた。

 私はそれでもあきらめなかった。地面に落ちているナイフを取りに体をひねった。しかしまたしても占い師に腕を掴まれる。
 
「離せ!!」
「離さない」

 私は占い師の肩をつかんだ。泥仕合が始まった。まさに取っ組み合い。押し合いへし合いが続く。細い体なのに占い師の力は思いのほか強く、やがて私は地面に倒された。

「何……すんのよ!!」

 占い師を見上げて、私は言葉を失った。

 銀髪はかつらだったのだ。今はほとんど外れかかっていて、フェイスベールもどこかにいってしまっていた。明るみの占い師の顔を私は初めて見た。