鞄に差し入れた腕をつかんでくる。

「離して……」
「あんな下衆のためにあんたの人生をフイにする必要はないんだよ」
「あいつは父の仇なんです!!」
「あいつがどんな男でどんなことをしてきたかくらいは分かってるさ。これでも占い師のはしくれだ」
「だったら私の邪魔をしないで」

「もうあんた一人の人生じゃないだろ」

 私は占い師の顔を凝視した。

「薄々気づいてるんじゃないのかい? あんたのお腹の中には新しい命が宿ってるってことに」

 ずっと体調が不安定だった。とくに日によって食欲がまちまちで、何の食べ物も受け付けない日もあった。逃避行の最中に現れた症状だったから、旅の疲れかストレスだと決めつけていたのに、島に住んでからも症状は収まらない。心当たりがあった。もしやと思わなかったら嘘になる。しかし、そうなると父親は――と考えてしまい、その先が怖くてあえて考えないようにしていた。