もし建物内に古川がいれば、いずれ外に出てくる。私はここで待つことにした。

 寒風に晒され、何度も手を息で暖めた。30分ほど待っただろうか。建物の入り口に人が立った。目を凝らす。口元には笑みさえ浮かべていたかもしなない。

 間違いない――古川だ。私は鞄のチャックを開けて手を突っ込む。ナイフの柄が当たり、否が応でも脈拍が上がる。
 
 古川は入り口から左に向きを変えた。その先には自販機。飲み物を買いにきたのだ。ズボンの後ろポケットに手を突っ込み、財布を取り出す。硬貨を投入し、缶コーヒーを買うのが見えた。建物に戻るところを襲うつもりだったが、古川は自販機の隣のベンチに呑気に座り、胸ポケットから煙草を取り出し口にくわえた。

 周囲には誰の姿もない。チャンスではあるが失敗はできない。もっともっと無防備なところで突っ込みたい。そうタイミングを計っている矢先、不意に腕を掴まれた。

 ギョッとして背後に目を向ける。

「……あなた」

 そこにいたのはあのガード下にいた占い師だ。濃い紫の服で身を包み、眩いばかりの長い白髪が目を覆っている。鼻と口はフェイスベールで覆われていて、顔の表情は読み取れなかった。

「やめな」