「まさか……」

 休憩室には人間に三人いた。私の父と陵の父和成と――アルバイト大学生の古川雄大。

 バイト中、何かと理由をつけては仕事をサボっている古川は周囲からの評判も悪かったという。事件当日もまた、サボる古川に父が注意した。その後、父に食ってかかる古川の姿を複数の人間が目撃している。殺してやると叫んでいたという証言さえあった。

 素人が考えても、誰が一番怪しいのかは一目瞭然だ。

「何で彼が逮捕されないの?」 

 口から飛び出したのは悲鳴だった。
 
「それは古川がその当時の警察署長の息子だからだよ」
「そんな……」
「署長の息子だからという理由だけで、最初から容疑者から外されていた。警察官といっても公務員だから上司の顔色をうかがったのかもしれない」

 最初から和成が犯人ありきで捜査が始まったということだ。

 もちろん和成側の弁護士だって、犯行が不可能だと主張したという。古川が怪しいという証拠も提出した。それでも検察側は方針を改めなかった。あくまで容疑者は和成であって、和成以外はありえないと。
 
 右手の握力が回復していたにも関わらず回復していないと言い続けていた可能性が排除できない。回復していなかったとしても左手を添えれば刺すことは可能だった。相手が何らかの理由で左脇腹を犯人に向けたということも考慮すべきだ。