問題はその先だった。

 そこには彼の父馬酔木和成が犯人ではない根拠が羅列されていた。

 父は左脇腹付近から心臓を貫く形でナイフが刺されたことによる失血死が死因となっている。対面した状態で相手の左脇腹にナイフを突き刺そうと思えば、普通に考えれば右手でナイフを持っていたことになる。

 しかし報告書には和成は左利きとある。

「そんなの、とっさに右でナイフを持って刺しちゃったのかもしれないじゃない」

 陵は首を横に振った。
 
「無理なんだ」
「無理?」
「父は若い頃、バイクに乗っていて転倒してしまったことがあったんだ。その時、右手を痛めてしまった。病院に搬送され、そのまま手術をしたものの、後遺症が残ってしまったんだ」
「後遺症?」
「握力がほとんど戻らなかった。ナイフを握るどころかスプーンでさえ持てたかどうかもあやしいくらいに」

 利き手じゃなかったから日常生活は何とかこなせた。営業の仕事をしていたから、重い荷物を持つのも稀だ。