島ではコーヒーや紅茶の類が手に入りにくい。全くないわけじゃない。しかし島民の大半が高齢者で日本茶の消費量がずば抜けているからか、それ以外の飲み物のラインナップが壊滅的に少ないのだ。

 彼――陵はすぐにはテーブルにつかず、奥の部屋に入るとやがて一冊のファイルを手に戻ってきた。紺色のしっかりとしたパイプ式ファイルで、私の手元にそれを置いた。

「これを見てほしいんだ」

 見出しは『胡桃山健志氏死亡事件における調査報告書』とある。
 
 見出しの下には佐藤探偵事務所と記載されている。佐藤という名前にドキリとした。いや、佐藤なんて名字はどこにであるものだと、一つ息を吐き、私はファイルから目を離し、彼を見た。

「見ていいの?」
「うん、そのつもりで持ってきたから」

 私はファイルを手に取った。ページを開くのに手が震えた。

 まずは事件のあらましから記載されていた。事件の日時、場所、その時の状況。加害者名、被害者名、起訴内容、判決内容と箇条書きが続く。これらは公式に発表されているもので、もちろん私も知っているもので何一つ目新しいものはない。