玄関先では一体誰に話を聞かれているか分からない。田舎は噂になりやすいから特に要注意だ。

 私は促されるままに彼の家に入った。

 大きさが似たりよったりだからか間取りも私の住んでいる家と大差ない。少し玄関先が広いだろうかと思う程度。

「とりあえず座ってくれる? お茶でも淹れるからさ」

 リビングに入るや否やそう言われ、私は大人しく椅子に座った。
 
 殺風景な部屋だった。テーブルセット以外には食器棚と部屋の隅にある小さなテレビくらい。リフォームもされていないのか壁紙も古いまま。

 元来、彼は散らかす方ではないものの、漁師という仕事が忙しいのか、テーブルの片隅には郵便物が積まれていた。最近覚えたこの島の住所。末尾だけが私の家とは当然違う。その下には馬酔木陵《あしびりょう》の名前。私同様、元々の名前で生活しているということか。

 ほどなくして湯呑が目の前に置かれた。鼻には日本茶の馥郁《ふくいく》とした香り。