それでも小さくてしわくちゃな顔をさらにくしゃりと笑うトメさんは憎めない。まだ知り合って間もないが、裏表がなく面倒見がいい。毎日のように野菜や魚、さらには煮物やら和え物なんかも分けてくれる。料理は何を食べても絶品で、素朴ではあるが人生経験をそのまま味に加えたかのように深みがある。

　言葉だけのお礼は毎回するものの、何とも薄っぺらく、しかし返せるような物もない。何かお手伝いしましょうか？　と申し出ても、困ったらお願いするねと笑顔を向けてくるばかりで実際に頼まれごとをされたことは一度としてなかった。
　
　島に来て五日。役所に行き、転入の手続きを済ませ、さしあたり野島雑貨店という店の店員をすることとなった。調味料、野菜、日用雑貨などなど、浅く広い品揃えでいわゆるコンビニのような店だ。

　店名が示すがごとく野島さんという老夫婦二人で切り盛りしている店で、この兼富《かねとみ》地区にはなくてはならない店であるにもかかわらず、後継者はいない。聞けば息子さんが二人いるらしいがどちらも島を出てしまい、島に戻る気はさらさらないようだ。
　
　野島雑貨店に勤めるようになったが、店は拍子抜けするくらいにのんびりとした時間が流れていた。客は全て顔見知り。来る時間帯も買う品物も大方決まっている。ご丁寧なことに、普段あまり頼まないものが欲しい場合、客の方から用意しといてと申し出がある。客もまた店の品揃えを熟知しているのだ。　

　私のすることといったら、野島夫婦のために手足となって動くだけ。仕入れした商品を店の奥に片付けたり、減った商品を倉庫から出してきて陳列棚に並べたり。あとは愛想を振りまいておけばいい。