私の住む兼富《かねとみ》地区は全部で10世帯の地区だ。私と斜向かいの家だけが誘致された若者が住んでいて、残りの8世帯は島民が住んでいる。

 初日に佐藤と一緒に回ったとき、会えなかったお宅の挨拶回りも大方終わり、残るは斜向かいの家だけになっていた。

 何度かお伺いはしているものの、聞くところによるとその家の住人は漁師見習いをしているらしく、朝早くに家を出て、夕方帰ってきたらすぐ寝てしまうというサイクルのため、なかなか会えないという。
 
 隣に住むトメさんというお婆さんとはすぐに仲よくなった。

「あんたみたいな別嬪さんがこんな島に来て、もったいないわぁ」
「そんなことないですよ」
「うちに息子が独身だったら紹介したのにさぁ」

 トメさんは見る限りでは70代くらいに見えた。それも四捨五入すれば80歳に届くであろう70代だ。息子を何歳で産んだかは定かではないが、常識的な範囲で想像する限り、40から50代にはなっているだろう。下手をすれば私とは親子ほどの年の差になるはずだ。