タクシーを降りた場所から約5分、一軒の民家の前に着いた。

「ここが今日から嬢ちゃんが過ごす家だ」

 佐藤は鞄から鍵を出すと、ためらいなく開錠した。家の中に入ればいかにも田舎といった造作で、三和土から真っ直ぐに廊下が伸び、正面に洗面所とお風呂。右手には台所。そして左には二間つづきの畳の部屋があった。台所は10畳くらい。和室はそれぞれ8畳くらいの広さだろうか。

 作りは古いものの、壁紙などは新しく変えられていて、住む分には古臭さを感じずにいられそうだ。
 
「広さは十分だろ? 一応、食器や家財も一式そろえられてる。電気ガス水道も今日から使える。後でガスの開栓だけは来るから対応してくれ」
「私はここで何を……」

 いきなり住めと言われてもピンとこない。

「建前はこの島での定住だ。過疎化が進んでいるこの島の未来のため、自治体は一人でも多くの若者を誘致したい。お試しの三か月間はこの家の家賃、光熱費は全てお役所持ちだ。明日から役所に行ってくれ。手続きを終えた後、仕事を斡旋してくれる。気に入れば続ける。ダメならまた次の仕事をもらう。それを繰り返して生活の基盤を作る」