検索サイトに羅列される見出しの中には、未だに父への誹謗中傷が散見している。父親の人となりを知っているはずの近所の人間ですら鵜呑みにしたのだ。有象無象の憶測にもてあそばれるのだけは嫌だった。

「少しの間だけだ」
「少しでも無理です」
「とにかく今は島に渡って過ごしてもらうより方法がない。現地に着いたら説明もする。何、大丈夫だ。きっとうまくいく」

 他に方法にないと言われれば従うほかなかった。鈴木博子(仮)で逃亡し続けるのは、もう無理だ。
 
 連絡船の中ではとりたててすることもなく、資料に目を通した。

 見慣れた生い立ち。ただしここ数年は別の人間が胡桃山美月として生きている。

 定時制高校に通い、昼間は働いていたものの、住所が二転三転している。事件のことで虐げられたら追い出されたかしたのだろう。結局、高校も1年ちょっとで辞めてしまっている。

 何とも憂鬱な気分になり、私は資料を封筒にしまった。何もすることがなくて甲板に上がり、景色を見ることにした。
 
 連絡船に乗って約40分。上陸したのは上島というどこにでありそうな名前の島だった。

 船から見る限り、それほど大きな島ではなく、つまりそれだけコミュニティがコンパクトに収まっているということになる。