もちろん全く連絡手段がないというわけにはいかない。学校からの連絡がつかないでは問題なので、母は一番安く使える携帯を持ってはいた。スマホのような高性能なものではなく、電話とメールができるだけの、ガラケーでも最下級の機種でカメラさえついていない機種だ。

 母の帰宅を待てば、その携帯でチラシの番号にかけることができるが、チラシのことはまだ耳に入れたくはない。

 わずかではあるがお小遣いを貰っていた。全くなしでは不憫だからと母が必死にやりくりしている中で捻出してくれたものだ。

 クラスメイトに誘われた時など、本当にいざという時に使いたい。その思いでずっと手を付けずにいて、一方で、できる限り人間関係を避けているものだから、誰からも誘われることもないまま貯金箱にはいくらかのお金が貯まっているはずだ。

 私の目はその貯金箱――タンスの上にある銀色の缶の形をした――に向けられた。

 側面には50万貯まるという文言。私が欲しくて買ったものではなく、景品か何かで貰ったもの。貯金箱ごとき、選り好みする気にはなれなかった。とにかくお金が貯められればそれでよかった。

 電話をするだけだから小銭があればいいのだが、爪をかけて引っ張ってもなかなか蓋が開かない。痺れを切らして、私は貯金箱ごと鞄に突っ込んで、制服の上に学校指定のコートを羽織って家を出た。目指す先は公衆電話だ。