雨筋の目立つ灰色の壁には喫茶の文字。喫茶店なのに店名は"漁港"。振り返っても海は見えないのに。いや、車を使えば近いといえば近いか。

 宮内漁港に向かう時には何故か気づかなかった。そこまでボーッとしていた意識はなかったのに。立ち止まる。店の東隣が森という立地だと気づく。

 なるほど。東から西に向かう時は、建物が森に隠れてしまうのだ。

 空腹といえば空腹だったが、何より足を休めたかった。

 本当だったら、もう少し漁港でゆっくりするつもりだった。ペタリと防波堤の地面にお尻をつけて、海を眺めていてもいいなと考えていた。
 
 飲み物だけでも飲もうか。店に近づくと、遠目に見ている時には気づかなかったが、"ランチやっています"のノボリが目に入った。今日は体調は悪くない。空腹感は感じている。

 仮にここで魚が食べられる料理があっても、この寂れた店でミッションを完了させようという気分にはならなかった。

 大丈夫。明日以降まだ時間もある。魚以外のものを食べよう。

 私は誘われるように店に入った。