「すいません。さっきご飯食べたばっかりなんですよ。なのでお店の情報さえ頂ければ、後日、お伺いしますので」
「でしたら夕食までどこか案内します」
「夕食はもう予約した店があるので」

 そこまで言うと、男は胸ポケットからカードのようなものを出し、そこにボールペンを走らせる。

「駅の東側にある商店街の中にあります。本当に絶品なんで是非、行ってみてくださいね」

 カードには海鮮処「末広」と書かれていた。カードを裏返してみると名刺だ。今田義徳《いまだよしのり》。宮内漁協、総務部管理課所属。役職は特にないようだ。あとは漁協の住所、代表番号と続く。
 
「ありがとうございます。行ってみます」

 深々と頭を下げ、私は逃げるように防波堤を後にした。 

 特に急ぐ必要もなかったが、漁港にいたらまたいつ声をかけられるか分からないので、逃げるように駅へ戻る道をたどっていた。

 冷や汗をかいた。ハンカチで汗を拭う。

 漁港と駅とのちょうど中間くらいまで歩いた頃、に、ポツリと臙脂《えんし》の三角屋根の建物建物があるのが目に入った。