「いえ……大丈夫です。気ままに過ごしたいので」
「あ、海鮮丼食べました?」

 私のあしらいは彼には通じない。いや、私の意図なんてとっくに気づいていて、敢えての無視というとらえ方もできなくもない。実際、彼はどこか粘着質だ。すんなり引き下がりそうにもない。

「凄く美味しい店、知ってるんです。案内しますよ」

 一人でいたいのでほっといてもらえますか? 喉元まて言葉が出かかり、でも飲み込んでしまったのは、ここで下手にトラブルになりたくなかったからだ。
 
 今は偽名を使って逃亡している身だ。下手に警察沙汰になって、最終的に私を探しているという佐藤の商売敵に居場所がバレたら大変なことになる。

「ありがとうございます」

 だから今は素直にペコリと頭を下げる。

「後で行くので場所と店の名前教えてもらえますか?」

 あくまで慇懃《いんぎん》に、それでいてできる限り相手との間にはっきりとした壁を作る。

「大丈夫です。僕、今、時間空いてるんで」