「すいません。ご心配をおかけして」
「いや……心配とかは……どうでもいいんだけど」
「ちょっと海を見ていたら、過去のことを思い出してしまって」
「お辛い経験をしたんですね」
「さぁ……どうなんでしようね」

 父の事件はもちろん、人の人生を買ったことは絶対に話せない。
 
「傷心旅行って感じですか?」

 最初こそ心配げな顔だったが、ここに来て、男が私に興味を抱いているのに気づいた。このままだと込み入ったところまで聞かれてしまいそうに感じ、咄嗟《とった》に言葉を濁す。

「いえ……単なる一人旅です」

 一人旅と言ってしまってからすぐにミスに気づいた。ツレと待ち合わせをしているだとか、グループ旅行だが、今日一日だけ別行動をしといるとか、言い方は他にもあったのに。

「へぇ、こんな辺鄙《へんぴ》な町に珍しいですね? どこか案内しましょうか?」

 予想通り一人というところに反応してきた。辺鄙な街に案内するようなところはあるのか。心の中でそう悪態をつく。