佐藤に会ったら、すぐ次の私の歩むべき人生を準備するように言ってやる。半月だ。半月以内にどうにかしろと無理難題を押し付けてやる。

　佐藤の困った顔を見るくらいしか、今の私には楽しみがない。我ながら何て性悪なんだろうと思う。

　不意に肩に手を置かれたのはその時だった。

　ハッとして顔を上げる。

　三十代くらいの男性が立っていた。作業着を着ていた。胸には宮内漁港の文字。少し年上だろうか。茄子のような顔型に、少し離れた垂れ目。無精髭を生やしているからか、少し疲れた顔にも見えた。いや、困った顔に見えなくもない。
　
「す、すいません！！　ここって関係者以外立入禁止でした？」

　慌てて立ち上がり、無造作に頬に流れた涙を手の甲で拭う。

「いや……別にそんなことはないんですけど」

　背はそんなに高くない。多分、１７０センチくらい。

「ただこんな場所まで来て、いきなりしゃがみ込んだら、やっぱり心配になるでしょ？」

　合点がいき、思わず失笑してしまった。確かに端から見れば、この次の行動は海に飛び込む以外思いつかないのかもしれない。