私は鞄の中身をテーブルにぶちまけ、その最奥を覗きこむ。やがてかなり小さく圧縮された紙の塊が鞄の内側にへばりついているのが目に入った。破らないように注意して指先で引っ張り出す。かなり無残な状態になってしまったそれを震える手でゆっくりと開いた。

 辛うじて文字が読める状態は維持していた。

 当たり前だが内容は変わらない。

 中央に"新しい人生を始めてみませんか? "の文言。あとは携帯番号らしき数字の羅列。いかがわしさも消えない。

 それでも連絡を取ろうと心に決めていた。もし本当に新しい人生を歩むことができるのなら、母と二人分買ってしまえばいい。それこそが、この負のスパイラルから逃れる唯一の方法だ。

 母はきっと反対するだろう。それでも全く新しい人生を歩む段取りを始めてしまったという既成事実が目の前にありさえすれば、母の考えだってきっと改まるはすだ。

 すぐにでも記載された携帯に連絡したいと思ったが、あいにくと部屋に電話は引いていない。余計なお金をかけたくないということもあったが、絶え間なく続く無言電話に怯えるという経験が、私や母から電話というものを遠ざけていた。