何か悪いことをしたから殺されたんじゃないの? 普通に生活してたら、そんなことにはならないよね。

 根拠のない悪意ほど恐ろしいものはない。何を言っても言い訳だと切り捨てられ、私たちは追われるようにその場を逃げ出すほかはなかった。

 私は何のために生きている? 逃亡を繰り返しながら、数え切れないくらいに自問した。

 もう本当に限界だったのだ。

 転機はポストに入れられた一枚の紙切れから始まった。新しい人生を始めてみませんか? はじめは腹が立ったことを覚えている。人が苦労しているのに、安易にこんな紙を投函しやがって。
 
 それでも背に腹はかえられず、私は今までの自分自身を捨て、母も捨て、新しい人生を買った。

 一転して、それからはずっと幸せな日々の連続だった。諦めていた高校にも行けた。友達もできた。そして――恋愛もした。

 バイト先の同棲同名の年上の彼氏。交際は順調で、大学を卒業する頃には結婚も意識するようになった。実際、式も上げた。

 まさに私の人生の絶頂期だ。

 でも所詮、嘘はどこまでいっても嘘ということなのだろう。婚姻届が受理されず――私は真相を知ってしまった。