私は立ち止まった。

 係留されている漁船が綺麗に並んでいる。その列の隣には古びた三階建ての建物が見えていた。おそらくは元々白色だったであろう壁は灰色に変色している。その壁には宮内漁協の文字。

 ――着いた。

 建物の隣には、屋根だけの広いスペースがあり、水揚げされた魚が並べられる場所だということは容易に想像がついた。


 もう昼を回ってしまっているから魚が置いてあることもなければ人気《ひとけ》もないが、早朝に行けば競りのようなものも行われているかもしれない。
 
 現金なもので海を認識した途端、潮風が鼻を突いた。 
 
 何となくその場所は聖域のような気がして足を踏み入れるのをためらい、私は建物の隣を抜け、波止場に出た。

 水面は穏やかだった。覗き込んで見たが、魚らしい影は見当たらない。釣り堀じゃないのだから、こんな岸の間近にそうそう魚なんているものじゃないのかもしれない。しばらく眺めていて、変化のなさに飽きた私は、そのまま海沿いを移動した。

 係留された漁船の前を通り過ぎ、やがて海へと伸びる防波堤の根元まで移動する。防波堤なんて波を遮るためだけの細い堤のようなものなのかと思いきや、意外にも幅があった。丁度乗用車一台分くらいの幅だろうか。