「待ちなさい」

 こんな場所で商売をしているのだから、声をかけてくることは想像していた。目の前を通る数少ない獲物だ。黙って見過ごすことはない。

「占いに興味ないんで」

 少しでも興味を示せば、ますます逃げ出しにくくなる。

「まぁ、そんなおっかない声を出さなくてもいいじゃないか。ちょっとこっち来て座りなよ」
「ホント大丈夫です。間に合ってますから」

 何が間に合ってるか分からないが、断り文句としては、この程度の言葉しか出てこなかった。
 
「暇と金を持て余してるんだろ?」
「持て余してません」

 私の言葉を無視して、占い師は勝手にタロットカードをめくり始めた。

「可愛そうに。男に裏切られたんだね。それで逃避行かい? おや、西に向かっているみたいだね」
「勝手なことしないでください」

 内心、ことごとく占いが当たってることに背筋が凍る。