鞄を床に置き、私はベッドのヘリに腰を下ろした。自然とため息が漏れた。

 逃避行はまだまだ始まったばかりだというのに、先行きの見えない不安で押しつぶされそうになっていた。

 こんなんじゃいけないと、頭を数回振り、邪念を払う。とにかく今は前を向こうと、床に置いた鞄を足元に引き寄せ、中から資料を取り出した。

 目で追いながら、ページをめくっていく。
 
 囲み数字と次の囲み数字との間の距離はさほど離れていない。多く見積もっても電車で2時間程度の距離といったところか。 
 
 宿の情報もあるにはあるが、一軒しか記載されていない場所も少なくなく憂鬱にさせる。観光欄も然り。

 滞在日数だけはちゃんと守るように佐藤から言われていた。残り場参考程度だとも。自由と言われても気分が乗らない。考えるのも面倒だし、調べるのも億劫だ。
 
 ベッドの頭の部分にある時計を見ると、午後4時を過ぎていた。昼食には遅すぎるが、お腹は空いていた。ホテルの食事処は夕方6時以降にしか開かない。初日の夜くらい外で少しいいものでも食べようか。

 スマホで地図アプリを開いてみる。少し歩いたところに商店街があるのを見つけた。

 私は立ち上がった。鞄は大きくて重かったので、できれば置いていきたい。財布に必要な分のお金を入れ、ジーンズのポケットに入れようとしたところで私は動作を止めた。